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  • 津田識義

第20回 バトンを受け継ぐ次世代経営者候補達の壁








1)あれもこれもの壁

 職位に応じた役割分担が大切という概念は下表の通り、管理職研修で多くの方が学びますから、知識としては知っている方が多いと思います。



 職位が上になればなるほど、Conceptual Skill(概念化技能)が求められ、Technical Skill(職務遂行技能)は下位職層に渡し、なるべく時間を創るということが上位職の胆になります。この空き時間をフル活用して、自分が任された部門/課/チーム/部門間横断の戦略を考えてみたり、メンバーとコミュニケーションをとり、彼らのモチベーションを最大限高める時間に本来は充当していただきたいのです。大枠日本企業の人事制度の職位別ウェイトも上記役割変動に対応して設計されており、職位が上がった場合、従来通りの仕事をしていれば低い点数が出るようになっています。


 実際小生も、クライアント先の店長達に以下の理想論を冒頭お話します。

「店長と言えば、人事等級で言えば、全10~12等級のうち7~8等級から選抜された方々で、まさに人事制度上はミドルですが、店長という役職に就いた瞬間、一国一城の主となり、その城を見事に守り抜き領土を拡大する戦略を考えなければならない。逆にお聞きしますが、店舗戦略を店長以外に考える人はこの会社にいますか?」

 答えはNoです。

 

 非常に大きな組織ですから本社に戦略部門のスタッフが50名程度在籍しています。彼らのミッションは全社戦略を構築することであり、残念ながら各個店の戦略を創り上げるには人手が足りなのです。では、その大事な個店戦略を創る=店長の役割と認識はできたとして、大きな課題が残ります。私は、また店長達に聞きます。「1日1時間考える時間を持てている人?」「シーン・・・」「では、30分ではどうですか?」「パラパラ・・・(だいたい4~5%)」


 1日1時間も考えず(熟考できていない状況)、しかも戦略策定のための勉強さえもしたことがない(そういう環境・チャンスを与えられていなかった)人財が考える戦略が当たるはずもなく、業績は悪化の一途をたどります。その業績責任だけは本部から追及されます。業績が悪いのはオペレーションが悪いor人が足りないからだ。と判断し「私(店長)が範を示さなければ!」と言って現場に入り浸る。(当然現場のスキルが高いから店長に抜擢されているわけです)。

 現場は心地良い=彼らにとってのコンフォートゾーンなのです。

 ここに最悪の悪循環が完成します。



2)外国人が感じる違和感の壁

 (日本技術者集団 VS 海外MBAホルダーの悪口合戦)


 製造現場で興味深い場面を良く見かけます。それは、日本技術者集団 VS 海外MBAホルダーの悪口合戦の構図です。

 日本企業の場合歴史的に製造拠点として海外進出をしているケースが多いものです。(一部の大企業では、その国の市場に立脚し、リージョナルHQを有しているケースもあります)そのような場合、本国(日本)から優秀な技術者が定期的に派遣され、現地法人トップも日本人であるケースが多いです。日本人は、日本人だけでミーティングルームに引きこもり、謎の会議らしきものをしていて、お昼も和食(現地では結構な高級料理)のお弁当を頼み、社員食堂には行かず、夜は運転手付の車で居酒屋直行。週末は大概ゴルフ(もちろん日本人同士)で過ごしています。現地スタッフと交流する機会は唯一マネージャークラスを呼びつけ叱責する時です。オーバーに映るかもしれませんが、実際に私が海外工場で見てきたありまままの姿です。


 現地ローカルスタッフに悩みを打ち明けられたことがありました。「日本人は気持ち悪いネ。いつも固まって、何か話している。別に何を話していてもいいんだけどネ。話し合った結果が我々に全く伝わってこないヨ。余りにもわからないから、前に質問したら、怒られたヨ。お前らはいわれたことをまずはきちんとやっていればいいんだ!ってネ。カナシイヨ」

 ローカルスタッフの社員満足度調査をすると、不満要因の第一位は圧倒的にコミュニケーション不足。会社方針が伝わっていないことにあります。


 日本人は基本的に、異質なものを受け入れず、居心地の良い=慣れ親しんだコミュニティーに週末までもどっぷりつかり、我々は日本の会社のマネージャーだ。だから偉いんだ。(本国に戻れば2階級落ちて課長クラスに戻る場合もあります)とプライドを持ちつつ、自らのコンフォートゾーンに浸りきっています。


 本来経営とは、環境変化に合わせて有機的に変化するものと教科書にも書いてあったはずなのでが、日本企業の将来を託した海外の前線基地がこのような有様です。彼らは本国の偉い方々が指示を出してくれるから、それに従うのが得策=勝手な判断で動いて成果が出なかったら全責任を負わされる。と考えているようです。ここにも悪循環サイクルを見て取ることができます。




3)ダイバーシティの壁

 次世代経営者が舵取りをする時代になれば、間違いなく今よりもダイバーシティが進展しているはずです。日本人だけでは、当面働き手が不足する現場が続出するからです。(これもAI&RPAに本格的に入り込むまでの過渡期の話ですが・・・)」

 実際、私のクライアントでもきわめて業績が良く、拡大すれば業績アップが間違いないのに、人手不足で泣く泣く仕事を断っていたという本当にもったいない話がありました。あまりにもったいないので、インドネシアとのパイプを活用し、毎年数人ずつ日本に受け入れることになりました。こうなってくると、マネージャーは今まで避けてとおってきた英語をなんとか駆使し、OJTをしなければならなくなりますし、以心伝心で伝わってきた社風や暗黙の了解も、すべて明文化する必要になってきます。


 そもそもダイバーシティ(多様性)とは、「幅広く性質の異なるものが存在すること」「相違点」のことで、組織でのダイバーシティとは、さまざまな違いを尊重して受け入れ、「違い」を積極的に活かすことにより、変化しつづけるビジネス環境や多様化する顧客ニーズに最も効果的に対応し、企業の優位性を創り上げることを言います。ダイバーシティ・マネジメントとは、ハーバードビジネスレビューによると、誰しも不平等な扱いをされずに、全従業員が生産性高く働くことができる環境を築き上げる統合的なマネジメントプロセスと定義づけられています。( A comprehensive management process for creating an environment that enables all members of workforce to be productive without advantaging or disadvantaging anyone. )


 つまり、ただ単に仲良くやりましょう!というものではなく、そこには明確な目的が存在します。特に、現在とこれからの日本企業にとって生命線になるのが、顧客ニーズに対し最も効果的に対応するということになります。前述の通り、海外にこれだけ進出している背景には、国内市場がシュリンクすることが十分予見され、その補完として海外市場シェアをとるためです。言ってみれば日本企業のグローバル市場を舞台にしたサバイバルゲームなわけです。

 例えばキッチンやリビングのリフォームを専門とする会社であれば、半数以上の管理職が本来女性であってほしいわけです。なぜならば、リフォームの決定権を家庭で持つのは実際にキッチンに立つ奥様であり、旦那様はお金を出しさえすれば良いというビジネスモデルになっているわけですから。にもかかわらず、実際の女性の管理職比率は、表彰を受けている会社でさえ10%にも到達していないわけです。


 先ほどの工場の例でいうならば、本国の本来の通達は、その進出先市場シェアを50%取れ!というものでしたから、経営会議に100%日本人というのはあってはならない事なのです。最悪でもローカルスタッフとの交流を日々実践し、文化の深いところを理解し、現地のターゲットのニーズやペインポイントを理解しているのであれば良いのですが、実際は日本にいるのと変わらない環境を日本人自らが構築しているのが悲しい現実です。



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